生き方を掘り下げるインタビューとは?正面から向き合い、相手の心を引き出すライターの技術と心得
人物取材を得意とする、ライターの貝津美里さん。学生時代はバックパッカーで世界を巡るなど、行動力も抜群です。しかし就職では挫折を経験し、自分らしく生きたいと思う人の背中を押せるようにと、ライターとして人の生き方を伝える記事を多数手掛けるようになりました。そんな貝津さんの仕事に込める想いをはじめ、インタビュー取材や記事化におけるライティングのコツも伺いました。
「人の生き方の選択肢を広げたい」悩みの中から手段として選んだライター業
――貝津さんは「生き方を伝えるライター」として活動されているとか。なぜそうなったのか、そして仕事への取り組み方を伺わせてください。まずは、「生き方を伝えるライター」とは?
言葉通りなのですが、私はインタビューを通して人の生き方を掘り下げ、その人の「名刺代わり」になるような記事を書く取材を数多くさせていただいています。十人十色の生き方を伝えることで、「こうでなければならない」「こうすべき」という固定観念に縛られて生きづらさを抱えている人の生き方の選択肢を広げたい。そんな想いがあります。なぜ生き方を伝えるライターとなったかというと、さまざまな葛藤を抱えてきた私自身の生き方が、根底にあります。
――ぜひその経緯をお聞かせください。
きっかけは学生時代に遡ります。今の日本は新卒一括採用が主流ですよね。大学3年生になればみんな一斉に就活をスタートさせる。私は学生時代にバックパッカーとしていろんな国を旅しながら、世界各国の人の生き方や、多様な価値観に触れてきたこともあり、みんなが一律で臨む日本の就活の制度にしっくりこないところがありました。
――それでライターになろう、と?
いいえ、まだ紆余曲折があります(笑)。就活をするなかで、周囲から「就活したくない」「社会人になりたくない」というネガティブな声を多く聞きました。でも、まだ何にでもなれる学生時代に自分の未来を悲観するなんて、もったいない!自分が社会に出て働くのなら学生の就活をわくわくするものに変える、人生の選択肢を広げるサポートをする仕事がしたい。そう思い、キャリアアドバイザーになることを目指して人材紹介会社に就職しました。でもそこで挫折を経験します。
入社3ヶ月もすると、自分の中で理想と現実のギャップの折り合いがつかなくなり心がポキっと折れ、会社に行けなくなってしまったんです。自己肯定感が下がり、何のために働くのかも、何がしたいのかも見えなくなりました。どん底状態で自分自身ととことん向き合った結果、残ったのは2つ。「書くことが好き」ということと、「人の生き方の選択肢を広げるために、何かしたい想いは変わらない」、ということです。そこで、ライターという生き方を選択しました。
――自分と向き合った結果、ご自身にも大きな選択があったんですね。
ライターになるのが目的というよりも、「人の生き方の選択肢を広げたい」という自分のミッションを実現するために選んだ手段がライターでした。自分らしく生きている人の生き方を聴き、記事を通して届けることで、自分らしい選択ができる人が増えれば…と考えました。そして、活躍の場を広げていこうとしたときに、自分と同じような想いを持ち、ありのままの自分を肯定していくためのヒントを発信しているメディアと、組織そのものがあると知ります。それがスカイベイビーズという場所であり、仲間たちだったんです。
知りたいのは、ありのままの姿。相手にまっすぐ向き合い、引き出していく
――具体的に、生き方を伝えるというインタビューについてお聞かせください。取材対象はどのような方が多いですか?
ジャンルや業種は限定しません。企業であれば、HPやオウンドメディア、noteを通して、代表の想い、メンバーの人柄、ブランドストーリーが伝わるインタビュー記事を制作したり。メディア全体の運営をサポートする編集者としての仕事をすることもありますね。自分自身が興味を持った方に取材を依頼し、メディアに寄稿をすることもあります。そんなときは“普通にとらわれない生き方”をしている人にお声がけをしています。なぜその道を歩んだのだろう、どんな体験をし、何を大切に生きているのだろう、そこに至るまでにはどんな物語があったのだろう。そういう話を聴くのがわくわくします。
――生き方を聴く、というのは奥深いところに踏み込むことだと思いますが、どのように引き出すのでしょう?
準備をしてきた質問項目を順番になぞるのではなく、自分が心の底から伺いたいことや、興味を持ったことを、自分の言葉で聴いています。私自身の経験や考え、仮説を取材対象者にぶつけ、対話しながら一緒に深めていくようなときもありますね。多種多様な”ふつうにとらわれない生き方”を知れたおかげで、現在は私自身の思考も固定観念にとらわれず柔軟に話を引き出せるようになりました。
――大事にしていることは?
インタビューをするとき、ありのままの相手を受け入れる姿勢です。今ここにいる、その人自身を大事にするということですね。生き方を伝えるという取材では、こちらが型にはめたストーリーにするのではなく、あくまでその人の人生をなるべく誠実に伝えることが大前提。予定していた方向や質問から離れていってしまうこともありますが、一方で、事前情報にはない、まったく知らなかった話が出てくることもあります。相手がいきいきと話しているときは、そのまま相手に委ねることも秘訣ですね。その人が楽しそうにしているときは、どんなテーマでも内容が面白いんです。
――予定調和にならないところが面白さでしょうか。
そうなんです。アンケートで情報をいただいて書けばいいじゃないかとか、AIに書いてもらえばいいじゃないかなんて思う人もいるかもしれません。でもインタビューはあくまで生もの。人と人との対話でしか生まれないものです。私自身もその方との対話を楽しみ、「この人のことをもっと知りたい」という気持ちで、共有している時間そのものを大事にしたいんです。
――相手との共同作業のようなところがありますね。いろんな話が出てきたときのまとめ方は?
面白いエピソードが盛りだくさんだった取材の後ほど、どうやってまとめようかと、頭を悩ませますね(笑)。書くときは、インタビュイーの人柄や想い価値観がより正確に伝わる言い回し、読者の興味を惹く構成にできるよう意識しています。ライターは、話し手と読み手をつなぐ翻訳者のような役割だと思うんです。誰が読んでもわかる文章に仕上がるよう細部まで妥協をせず制作しています。
――インタビュー時は話し方も意識されますか?
そうですね。相手の表情や喋り方のトーン、話題による言葉の出方の違いをよく観察し、相手によって自分の話すスピードやトーンを変えています。こういう順序で聞くと話しやすそうだな、と質問の順番を即興で変えることも珍しくありません。生き方をテーマにお話を伺うと、センシティブなエピソードやお相手の心の傷に触れることもあります。そうなったときに、インタビュイーから「この人になら話してもいいかな」と信頼してもらえるような場作りも重要だと感じています。私は子どもの頃、人の顔色を窺いすぎてしまうところがコンプレックスだったんですが、取材の場では逆に、場の空気を読みながら相手に合わせて取材の構成を組み立てるのに活かせています。自分の気質も活かし方次第だなと思いますね。
一人じゃなく、仲間と一緒に記事の中身を磨き上げていく
――記事化するときに心がけていることを教えてください。
文章には正解というものがありません。だからこそ最後までより良い表現を探し、妥協しないところですね。これで完璧だとか、これでこの人の生き方を伝えられたに違いない、と思ってしまうのが一番怖いことです。その人のことを伝えるのに、もっと最適な言葉があるんじゃないか、もっと踏み込むにはどう書けばいいのか、と常に悩み続けながら記事を作っています。その人の人生を変に綺麗に切り取り、誇張してよりよく見せようということはしません。悩んだり葛藤したり、ちょっとズルをしたりするようなところも含めて、人間らしさをしっかり見せたいと思っています。
――スカイベイビーズでの制作体制はどうなっていますか?
ライターと編集者が一緒に歩む形です。スカイベイビーズは記事を作成するうえで対話を大事にしていて、読んでみての感想や表現方法など、お互いに内容を研ぎ澄ませながら、一つの記事を作り上げていきます。同じ価値観を持ったメンバーで進めるからこそ、他者視点でも面白いと思える記事作成が可能になっていると思います。
――それこそAIにはできない取材や制作方法で、人を伝える記事が作られているんですね。
常に悩みますが、とことん突き詰めて、納得する記事に仕上がった後に、喜んでいただけたり、悩んでいる方に「勇気づけられる記事でした」と言っていただけると嬉しいですね。
一人ひとりにその人の生き方がある。取材対象が誰であっても変わらない
――誰もが特別な生き方をしている人ではないと思います。例えば、他のジャンルの取材でも貝津さんのスタイルは活きるものでしょうか。
企業のサイト作りで、代表や社員の方の取材をさせていただくこともあります。そういうときでも取材や執筆の仕方、意識している大事なことは大きくは変わらないと思います。
同じ会社で同じ業務内容の方に取材をすると、確かに同じような話になりがちです。でも同じ仕事でもやり方や捉え方は、100人いると100通りあります。仕事をする上での小さな工夫や、人とは違う着眼点など。実際に話を聞くことで、意外なその人の一面が見えてきます。そんなときは、「ここにいる『人』たちが、会社をつくっているのだな」と実感しますね。一人ひとりの個性を引き出し、想いや価値観を汲み取り、言語化してストーリーにすることが私の仕事です。そこは普通にとらわれない人たちの生き方とも変わらないところですね。
――確かに、会社のためのライティングであっても、そこで働くのは“人”ですしね。
外部からその会社を見ると、事業内容、CMやロゴなどからイメージし、中身を想像することが多いですよね。でも実際そこで働いている人たちと対話すると、この会社を作っているのは、自分の生き方を持っている「一人ひとり」だとわかります。企業が打ち出す事業内容やミッション、ビジョンといった、外から見えている部分は氷山の一角で、それを考え形にするまでには、代表も含め、社員一人ひとりの想いがあります。そんな奥深くの地層から会社の生身の部分を引き出すことで、会社の設立の原点やブランドの本質的な魅力を、世の中のより多くの人に伝えられるのではないかと思っています。
――貝津さんの一貫した姿勢が、どんな対象からでも同じように生の人の姿を引き出すのですね。この先、目指していることは?
これからもいろんな人の生き方を伝えていくことは変わりません。以前の自分のように、生きづらさを抱えている人に向け、生き方の選択肢を広げられるような記事を書いていこうと思っています。できたらその範囲を広げていきたいですね。世界には日本を飛び出し、別の国で自分らしく生きている人がたくさんいると思います。そんな人を訪ねて一冊の本にまとめる、というのも面白いかもしれません。表現の仕方は一つではありません。もっと自由でもいいなと思っているので、どんなふうに枠を広げられるかを考えながら、これからも活動していきたいと思っています。
――どのように活動が展開してくのか、とても楽しみです。お話をお聞きし、貝津さんの仕事に対する誠実さと、相手に寄り添う視点が、気づきや勇気を与える文章となって、人の心を動かすのではないかと感じられました。また、企業で働く人など、誰にでもそれぞれの生き方があり、それを伝えることで採用活動をはじめ、ブランディングや販促といった企業活動でも貢献できるのだなとわかり、興味深かったです。今回はたくさんのお話を聞かせていただき、ありがとうございました。